七瀬クンとの恋愛事情
「ふふっ」
深呼吸をするように息をついて、残ったビールを飲み干している七瀬くんに思わず笑みが込みあげてきた
「なんですか?」
「ううん、七瀬くんでもそうやって悩むことがあるのね」
ここのところ、完全に彼のペースに流されていたからつい気が抜けてしまった
「倫子さんは?」
「ん?」
「何怒ってたんですか?今日一日、俺を無視してた理由」
隣同士で座るカウンター席で、ズイッと顔を突き合わされた
「い、今そんな話?」
「昨日の事、なかった事にしたいって?」
「………………」
コピー室での途中になった話だ
わたしだって正直意味が分からない
大体、朝早くに先に着替えてベッドに残されたまま
『なんか、ごめん』なんて言われて、
そりゃあ、昨日誘ったのは私の方だよ
上司だし、30過ぎてるし、パワハラだって言われたら立場ないし………
だから、なるべく接触を避けて平常心で仕事してただけじゃんっ
なかった事にしたいんでしょ、普通に
なんて言いたい言葉を飲み込んで、思わず下唇をかんだ
「倫子さん?」
「謝らなきゃいけないのはこっちだし、別に気にしないでって言ったでしょ?」