七瀬クンとの恋愛事情
顔を上げ彼を見上げると、またニカッと歯に噛んだ笑顔をみせた
「なんてね、安モンだけど」
「………っ!」
ナニソレ………やめてよ
「あのさぁ、今倫子さんは、恋がしたいんでしょ?
俺もしたいな倫子さんと」
そういって誰もが引き込まれるような、優しい眼差しが私の中に落ちてくる
そのまま一区間で開いた車両扉から軽く手を引かれ、駅に降りた
確信的なんだろうとしても、既に導かれるように家の方向へ足を向ける
されるがままに絡ませて繋ぐ私の手より大きくて長い指を振りほどけない
「終電までまだ時間あるし、俺はまだ一緒にいたい」
彼がまるで大きなワンコに見えてきた
「う… 今日は泊めないよ」
徒歩8分のマンションへ、歩く歩幅を私に合わせた七瀬くんのテンポで進む
「テレビでも見る?」
部屋に入りとりあえず手持ち無沙汰な私が、テレビのリモコンを持つと、後ろから覆い被さってそれを邪魔する
忍び寄るその柔らかな唇が後ろからチュッと首元に這い回ると、ぴくっと肩を上げる
「こらっ、て、あ………もぅっ」
「もう、なに?」
犬だ!!
これは仕付けのされてない大きな駄犬
手癖も意地も悪い
わざと焦らすゆっくり長い愛撫も、音をたてながらこっちの気を集中させてくれない
「今日は帰るんだよね」
「倫子さん、つれないなぁ」
私も大概のバカ者なのかもしれない
七瀬くんの言う彼の恋愛観も知らないまま、リスクを考えずそのまま流されている