海に降る雨
「ラジオ局、変えようか?」

「何で?そんな気を使わなくていいよ。別に曲を聴いて泣いたりなんかしないからさ」

「そうだよな。気を使って損した」

「わたしってデリケートに見える?」

「いや、全然」

「そうでしょう」


 強がりを言っているのなんて、きっとわかっている。

 お互いを知りすぎているから、隠したい部分もある。

 FMから流れる曲を聴きながら、窓の外に流れる景色を見る。

 やがて街中を抜けて、海沿いの道へと出た。

 隣の雅人は一言も話さないまま、ハンドルを握って車を走らせている。

 沈黙が気まずくなく、むしろ丁度いいかもしれない。

 何も聞かないでくれる。

 その優しさ。


「あっ、これ俺が今一番気に入っている曲だ」


 男性歌手のバラード。

 一番近くにいるのに、彼女は自分の思いに気づかない。

 いつも彼女が追っているのは、別の誰か。

 何だか意味深な歌詞の内容だ。


「カラオケで歌ったりするの?」

「あぁ、たまにね」


 雅人が歌うところを想像できなかったりするけど。
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