海に降る雨
「外の現実を忘れそうだな」

「私もそう。だから選んだんだけど」

「たまにはいいな」

「そうでしょう」


 同じ気持ちでいることが嬉しかった。


「デジタルカメラでも持ってくれば、よかったかな」

「そうだね。でも、デートじゃないんだし」

「あぁ、そっか。そうなんだよな」


 傍から見ると、私たち二人はどんな風に見えるのだろうか。

 カップルに見えるのかな。


「スマホのカメラでも綺麗に撮れると思うけど」


 嫌な流れになりそうなのを、違う方へ話を向ける。


「そういやそうか。待ち受け画面にもできるし」


 雅人がバッグからスマホを取り出して、水槽へとカメラのレンズを向けている。

 それを私は黙って見ていた。


「撮らないのか?」

「うん」


 形に残る思い出は残さないほうがいい。
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