Real Emotion

噛み付くように唇を塞いだ激しいキスに全身が痺れるようだった。
そのキスを受け止めるのが精一杯で、意識も集中力も吸い取られていた私は
掴まれた両手首が背後に回されても、その意図を察する事はできなかった。
束の間、キスが止み、唇の上で低く掠れた声で呟かれた。


「これで いい」


朦朧としたままで彼に「何?」と吐息で問いかけ、腕を彼の首に回そうとして
私はようやくその言葉の意味に気付いた。



「え?」



意のままにならない手首に巻きついているのは
その感触から彼のネクタイらしい。いつの間に外したのだろう。
上体を捩り揺すってみても緩まる気配は無い。



「外して・・・」
「あまり動くと落ちるぞ」


危ないな、と愉しげに微笑んだ久野の両腕が私のウエストを支えて
膝から降ろすと今度は向かい合わせになるように私の体の向きを変え、また抱えなおした。
後ろ手に縛られ男の膝に馬乗りをしている自分の姿態の恥ずかしさにのぼせてしまいそうだ。
目の前にある久野の顔をまともに見ることができなくて伏せ気味に逸らした目が
私のシャツのボタンを外しにかかる彼の左手を捕らえた。



「待って!」
「なに?」
「・・・ここで?」
「ああ」
「ここはイヤ」
「どうして?」
「誰か来たら困る」
「もう誰も来ない」
「でもダメ。お願い」
「ん・・・」
「お願い」
「ああ・・・」



私の声など聞こえていないかのように平然とボタンを外し終え
肩を落としたシャツは私の肘で止まった。



「待って・・ね、待って!」
「これ以上、待てない」
「これ以上って・・」
「あの夜から、どれだけ待ったと思っている?」
「それは・・・」
「わかっている。君を責めるつもりはない。だから・・・」



もう黙れ、とでも言うように久野はキスで私の口をふさぐと
頼りなく肩にかかるランジェリーの紐もするりと滑らせた。
ひやりと触れた空気が露わになった胸元を粟立たせ、私は息を呑んだ。
艶かしく息をついた久野が儚く壊れそうなものを包むように私の乳房を両手で包むと
親指で胸の先端を触れるか触れないかのタッチで円く撫で始めた。
ゆるゆると羽毛で弄られているようなもどかしい刺激に
皮膚の下をむず痒いような快感が駆け回りはじめた。


堪えきれず声を上げ首を振ると、胸の膨らみまでが柔らかく彼の手の中で揺れ
「あまり煽るなよ」 と呻くように声を上げた彼の唇が
尖る胸の先端を咥えて、舌先で転がし何度も弾いた。


ぐるぐると胸元を駆け回っていた快感は四方の爪先へ向けて急速に広がっていく。
舌と唇と指で執拗に絶え間なく与えられる快感に反った背中が胸を突き出し
まるで愛撫を強請っているかのような淫乱な姿の自分に激しく羞恥を揺さぶられ
あっさりと頂点に押し上げられた。



息を弾ませ、久野の上体にぐったりと身体を預けると
「もう降参か?まだこれからだぞ?」と愉悦を帯びた声に耳元を擽られて
また体が小さく反応してしまう。 



「あ・・・も」



どうしてこんなに敏感なの、と思うようにならない自分の身体にため息をついた。



「感じ易くなった?」
「そんなの、わからない」



クスクスと笑いながら私の背をゆっくりと撫でていた久野は、私の腰を支えて
自分の膝の間に立たせた。



「縛られてるから?それともオフィスでこんな事してるせいか?」
「そんな事・・・知らない」



意地悪い物言いに照れて顔を逸らすと
スカートがふわりと捲くれ上がり、ちりり、と焼けるような音がして
床に薄布が切れ端となって落ちた。



「!」
「すまない。後で弁償する」
「そういう問題じゃ・・・あっ」



言い終わるより早く私の足の間に滑り込んだ長い指先が
熱く濡れた浅い部分を開き、ゆるゆると抜き差しをし始めた。
巧みに動く指先が与える快感はさっきよりもずっと深いのに
体の奥深くで目を覚まし起き出した欲望が嘆く。 


足りない、と。


その嘆きを感じとったのだろうか。
愛撫の手を止め、私の腰を掴んだ久野は
昂ぶり立つ自身の上に座るようにと私に命じた。
欲望に飲み込まれた理性はもう使い物にはならなかった。
私は言われるがままに膝を開き彼に跨り身体を沈めた。


私の中の柔軟な壁を押し分けるその硬さと質量に背筋が震えた。
その感覚が惜しくて、ゆっくりと上下しながら何度も味わい
ようやく全てを飲み込むと、甘やかな吐息が細く零れた。
それは欲しいものを与えられ満たされた身体が発したサイン。
それに応えて久野も切なく 最高だ、と私の首筋に呟いた。


私が彼を飲み込む快楽を貪っている間も
久野の手は休むことなく私のウエストのくびれや背中のくぼみ
そして乳房の円みと手触りを確かめるように艶かしく動き
これでもかと言うほどに私を煽り高めた。内と外、両方から乱され
甘ったるく蕩けた私の顔を彼の両手が包んで、私の名を呼んだ。



「茉莉子」
「ん・・・」
「愛してる」



熱く濃厚にくちづけられ意識が遠のいて、久野への欲望に支配された身体は
もう快楽を与えてくれる彼の囁きだけしか受け入れられなくなる。


動いて    
ゆっくり  
回して
速く
  
もっと  
もっとだ 


より深い快楽を求める身体は久野の意のままに従順に動き
彼の思うままに荒々しく揺さぶられ、二人一緒に恍惚の瞬間を迎えた。
乱れた呼吸のまま私はぐったりと身体を久野に預けた。


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