Real Emotion
3 誘惑のカクテル
「勝負に勝てそうなカクテルですか?」
「何でもいいわ。がっつり気合が入るやつ」
「はあ・・・」
眉を八の字に寄せ困惑した表情のバーテンダーに
「作り甲斐があるオーダーだな」 と声がかかり、続いた。
「美人は難問を出すものと昔から決まっている」
「ええ、そうですね。善処しましょう」
「ああ、頼む」
バーテンダーではない声を辿って目が合ったのは
ふたつ向こうの席に座る細身の大柄な男だった。
ちょっと待ってよ。オーダーしたのは私なのよ?
なんで関係ないアンタが調子よく喋ってんの?
小さく舌打ちして一睨みした私に
その男がグラスを掲げながら微笑んだのは挨拶代わりか。
何よ、粋がっちゃって。
・・・でもちょっとイイ感じかも、とその微笑に小さく胸が鳴った。
「レディ・ゼネラル」
「は?」
「レディ・ゼネラル。女将軍とでも訳すか・・・」
「それ、どういう意味?」
「どうもこうも。勝負に挑むのに酒を煽って景気づけるのだろう?勇ましい事だな」
「悪かったわね!勇ましくて」
前言撤回。嫌な感じ。この男、人のことおちょくってるの?
「悪い意味に取らないでほしい」
そう言って薄く笑い、席を立った男の長身は座る私からは見上げるほどだった。
優雅に歩いて私の隣に「失礼」と呟いて腰を下した。
「ちょっと羨ましいと思ったんだ」
羨ましい? 何、意味の分からないことを言ってるのよ、と思ったけれど
男の姿に見惚れて言葉にならなかった。
だってこの男、不躾だけれど近くで見ると
ちょっとどころか規格外にイイ男なんだもの。
「羨ましい?」
「ああ」
切れ長の涼やかな目元を飾る細い鈍色のフレームは知的でエレガントで
それにサラリとかかる長めの前髪の色っぽさが端正な顔立ちに甘さを加えている。
ひと言でいえば、超がつくほどイケメンで私好みなのだ。
スーツもシャツも上質なのは一目でわかる。センスも抜群だ。
一瞬でこの男に囚われた気がした。
「貴女のような人に挑まれる男が羨ましい、と」
きりっと閉まった口元から発せられるのは艶のある声。
ヤバい、な。
全身に駆け抜けた直感に警戒警報が忙しなく点滅をし始めた。
「どんな男がその栄誉を与えられるのか、と」
ああ、ダメだ。マジでヤバい・・・
分かっている。分かっているのよ?
とびきりのイイ男なのに下手に出て相手の自尊心を擽るのは
女ったらしの常套手段だと。そんなこと百も承知しているのに。
「できる事ならその候補になれないものか、と」
伺うように私の顔を覗き込む男の視線に肌が粟立った。
わかっているけど、いいじゃない?
女ったらし上等。こういう男の方がきっと今の私に似合っている。
瞬きをひとつして、彼と視線を合わせた。
「・・・なれるわ、アナタなら」
見計らったように出されたグラスを掲げて合わせると
それは始まりの時を告げるかのようにキィンと透き通った音を響かせた。