ヒミツにふれて、ふれさせて。
「…桜井さん。友達ってウソね?」
「…っ」
パチパチとビーチサンダルを鳴らしながら、再びわたしのもとへ飛んで来た美濃 珠理。
話したこともない相手に手を差し伸べるような人だ。あんな大きな怒り越えを向けられている事に対して、反応するのも分かる。
…分かる、けど…!
「余計なことに首突っ込むけどね。アンタ、このままその人のところに行くワケ?嫌なニオイしかしないわ」
「だ、大丈夫…。いつものことだから」
「いつもあんなこと言われてるの?でも、アンタは今日そんな身体なのよ?」
「ほんと、大丈夫だよ…っ」
やさしい人はすき。確かにリョウちゃんは少し怖いところもあるから、こうやって心配されるのは嫌じゃない。
けど、今、この人にどうしてもらうっていうの。今まで話したこともなかったオネェ系男子に!
「大丈夫、大丈夫だから。美濃さんは、早く行って…」
「…」
心配してくれてありがとう。でも、わたしはそれでも、リョウちゃんに会いたくてきたから。
「………そう」
アスファルトから、じんじんと熱い空気が上がってくるのが分かる。
蝉の声とか、鎌倉の観光に来ている人たちの声が響く中、美濃珠理の低い声が、しずかに響く。
「じゃあ止めないわ。くれぐれも身体大事にしてね。それから…」
美濃珠理は、持っていた小さい肩かけカバンから、ペンと紙を取り出して、急いで何かを書いていた。
そして、それを小さく畳んで、「ハイ」とわたしに手渡した。
「…何かあったら、いつでも言って」
「……」
そこには、美濃珠理の連絡先と思われる番号が書かれてあった。
「…なんで、ここまで…」
思わず、呟いてしまう。
さっき、わたしがお腹が痛くて倒れていただけなのに。
それを助けてくれた、それだけなのに。
「…なんでって、もうアタシたち、顔見知りじゃない。心配になっただけ」
「…」
美濃珠理の基準が、イマイチ分からなかったけれど、それだけを言うと「じゃあね」と、再び背中を向けた。
手渡された紙。美しい容姿からは想像もできない、男の子っぽい字。
わたしは、それをもうひと折りして、カバンの内ポケットに静かにしまい、そのまま青い家の玄関を開けた。
…これが、美濃 珠理との、いちばん最初の繋がりだった。