ヒミツにふれて、ふれさせて。
「…中途半端な気持ちで、珠理のこと知ろうとしないで。わたしだって、珠理に近づこうと必死だったけど…でも…」
茶々ちゃんは、歯並びの良い前歯で、下唇を傷つけながら手のひらを握っていて。わたしは、良くないことを聞いてしまったと、心の底から後悔した。
…珠理。知らないことばかりだけど、きっと彼にも色々とあるんだ。
ハニーブロッサムのことも、あまり聞かない方がいいのかもしれない。
——— 嫌われるのは、いやだ。
「…うん、わかった。ありがとう茶々ちゃん。もう何も聞かないでいる」
「——…」
今度こそ扉に手をかけて、渡り廊下を出た。
ハンカチをポケットから取り出して、そのままトイレに向かいながら、考える。
…きっと、茶々ちゃんは珠理のことを知っているんだ。珠理が、おそらく持っているのであろう、ヒミツを。
そうだよね、元カノだもんね。珠理のこと、わたしよりもよく知っているのは当たり前だよね。
…わたしは知らない珠理を、茶々ちゃんは知ってる。わたしが知らない珠理は、まだまだたくさん隠れてる、気がする。
でも、気にしたって仕方がないんだろうな。珠理が黙っているのであれば、何も聞かないでいるのも優しさだ。
誰にだってヒミツはある。わたしだって、リョウちゃんのことはヒミツだったのだから。
珠理にだって、わたしに話せないことがあったとしても、それは不思議じゃない。