ヒミツにふれて、ふれさせて。



冷たい声でそう言われた時、さすがに少し、傷ついた。少しだけ、涙が滲んだ。だから、必死に隠した。



「…体調、わるいの。だから今日は、できないの。お願い、ゆるし…………」






……“ 無理しちゃだめよ、お大事にね ”





「………ッ」


再び、頰に衝撃が走るとともに、さっきの美濃珠理の言葉を思い出してしまった。

…分かってる。分かってるよ。けど、自分を大事にするよりも、もっと優先しなきゃいけないことがあるんだよ。

…それがバカなことだってのも、本当は少し気づいているよ。



「なら、もういい。帰れ」

「…………」



それでも、わたしは。この気持ちがなくならないから、どうしていいか分からずに、従っているだけ。

自分の身体を引きずっていってでも、昔のきらきらとした思い出に、すがりついておきたいだけなの。


…もしかしたら、またあの日に戻れるかもって、ずっと考えてる。ただ、それだけなの。



「…っ、ごめ………」



部屋を出たら、怒られるかと思ったけど、リョウちゃんは追いかけては来なかった。

人間は、大きな痛みはひとつしか感じないようになっているらしい。
ジンジンと痛む心をおさえながら走っていたら、頰の痛みも、お腹の痛みも消えていった。


“ 何かあったら、言って ”


…言えない。言えないよ。

だって、言ったらバカにするでしょう?「アンタばかね」って、言うでしょう?

それはもう、誰に言っても同じだって分かってるから、言わないの。


わたしは、ただ、ぼろぼろになっても、走っていくだけ。






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