ヒミツにふれて、ふれさせて。
「…どうした?珠理になんかされた?」
「……っ、いや…」
別に、何もされてないし、何を言われてもいない。名前を呼び間違えられただけだ。
でも、そんな情けない子どものような理由、近海くんに言えるわけもなく。
「ははは、ごめん、なんでもないの。なんか調子悪いのか、疲れてるのか、色々もやもやが溜まっちゃって…多分それで…」
急いで涙を拭った。夢中で。
でも、それも虚しく、次から次へとそれは流れていって。
「…ごめ………」
地面へと、情けない言葉と一緒に、落ちて消えていく。
「…泣いたきっかけとか、心当たりあるなら、吐き出した方が楽になるんじゃねーの?」
近海くんは、珠理と違って何をするわけでもなく、となりにいて、顔を覗き込んでくれていた。
でも、その言葉に妙に納得して、小さくうなずいてしまう。それを合図に、近海くんはもう一歩前に出て、少しだけ背を屈めてくれた。
「…さっきね、珠理に八つ当たりしちゃったの…。ひどいこと言ったの、わたし…」
「……そう。どんな?」
どんなって聞かれても。口に出して言おうとすると、本当にバカらしいくらい小さなことで、さらに情けなくなってしまう。
「…珠理が寝てたから、起こそうとしたら…名前を呼ばれたの…。違う子の名前。珠理に昔から大切な子がいるのは知ってた…から、だからこそ、わたしにやさしくしてくれたこととかが、急に嫌になって…」
「………」
「あんたは男の子なんだから、大切な人がいるのに、そういうのやめてって怒っちゃった…っ。わたしは、たくさんやさしくしてくれて、嬉しかったのに…っ」
「………」
口にしたら、本当に意味が分からなかった。自分で何に怒っているのか、本気で分からなくなった。
バカじゃないのって思った。一気に、珠理に謝りたくなった。
だけど、それもまるごと、近海くんはうなずきながら聞いてくれていた。