ヒミツにふれて、ふれさせて。


「…どうした?珠理になんかされた?」

「……っ、いや…」


別に、何もされてないし、何を言われてもいない。名前を呼び間違えられただけだ。

でも、そんな情けない子どものような理由、近海くんに言えるわけもなく。


「ははは、ごめん、なんでもないの。なんか調子悪いのか、疲れてるのか、色々もやもやが溜まっちゃって…多分それで…」


急いで涙を拭った。夢中で。
でも、それも虚しく、次から次へとそれは流れていって。


「…ごめ………」


地面へと、情けない言葉と一緒に、落ちて消えていく。



「…泣いたきっかけとか、心当たりあるなら、吐き出した方が楽になるんじゃねーの?」


近海くんは、珠理と違って何をするわけでもなく、となりにいて、顔を覗き込んでくれていた。

でも、その言葉に妙に納得して、小さくうなずいてしまう。それを合図に、近海くんはもう一歩前に出て、少しだけ背を屈めてくれた。


「…さっきね、珠理に八つ当たりしちゃったの…。ひどいこと言ったの、わたし…」

「……そう。どんな?」


どんなって聞かれても。口に出して言おうとすると、本当にバカらしいくらい小さなことで、さらに情けなくなってしまう。


「…珠理が寝てたから、起こそうとしたら…名前を呼ばれたの…。違う子の名前。珠理に昔から大切な子がいるのは知ってた…から、だからこそ、わたしにやさしくしてくれたこととかが、急に嫌になって…」

「………」

「あんたは男の子なんだから、大切な人がいるのに、そういうのやめてって怒っちゃった…っ。わたしは、たくさんやさしくしてくれて、嬉しかったのに…っ」

「………」


口にしたら、本当に意味が分からなかった。自分で何に怒っているのか、本気で分からなくなった。

バカじゃないのって思った。一気に、珠理に謝りたくなった。

だけど、それもまるごと、近海くんはうなずきながら聞いてくれていた。



< 157 / 400 >

この作品をシェア

pagetop