ヒミツにふれて、ふれさせて。
リョウちゃんのことがバレそうになった時、少し怖かった。けど、黙ってこの紙を渡してくれた。
…今まで、何の接点もなかったのに。
「…みのう、しゅり…」
カサリと紙を開いて、なんとなく、連絡帳に美濃珠理のものであろう番号を入力した。別に、この頃のわたしには、大きな意味はなかったのかもしれない。
少し優しくしてもらったから、それが嬉しかったから、だから、登録した。それだけのことかもしれない。
…でも、この日のことが、わたしにとって大きな意味のあるものに変わっていく。
「…あッ、間違っ………」
思わず、押してしまった発信ボタンから。
少しずつ、わたしの世界が変わっていくのを、わたしはまだ知らなかった。
「……っ」
『登録完了しました』の表示から、間違えて画面に触れたわたしの指。
ワンコールのみで切ったけど、遅かった。
「…あれ、切れたわ。なんだったのかしら」
「…………」
白い買い物袋を持ったその影は、再び、わたしの目の前に現れたのだから。
そして、その影は、美しい目でわたしを捉えた瞬間に、大きく動く。
「…………桜井さん」
「…っ」
通話履歴が表示されたまま、わたしはスマホを握りしめていた。
…目の前の、この人と同じように。
「…さっきの知らない番号、もしかして桜井さんなのっ?」
「…っ、あ…!」
日が沈んだ中でこれでもかというほど輝いている、スマホの画面。それにわたしはようやく気づいて、慌てて腕を下ろす。
…やだ。間違えてかけてしまったって、早く言わなきゃ。