ヒミツにふれて、ふれさせて。


「めごのお母さんは、お料理上手みたい」


ふふふ、と笑いながら、サラダの中に入っていたタコを頬張る珠理。
ていうかそれ、こんなに美味しいご飯を作っているオジサンの前で言うのか…。

なんだか照れ臭くなって、しばらく足元を見てしまっていた。その間も、珠理とオジサンは料理について色々とお話していた。

わたしは口を動かしながら、ポトフの美味しさを噛み締めて。


ふたりの話を、聞いていた。



……その時だった。



「——ねぇ。 めごに、あの人のこと話してもいいかな」



…突然、珠理がこんなことを言ったのは。


“あの人” と呼ばれるその人が、誰なのかは一瞬わからなかった。まず、なんの話をしようとしているのかも分からなかったし、初めはピンとこなかった。

だけど、さっきのことを思い出しているうちに、少しずつ、あの人が誰なのかが分かってきて。


「…あの人って…、もしかして、サユリのことを言ってるの?」


……そして、それは、確信へと変わる。

オジサンは、聞かれてもなんとも思っていないような顔をしていた。というか、オジサンがその“サユリ” を知っていることが驚きだったんだ。


…まさか、自分の特別な人のことを、家の人にも話してるなんて、思いもしなかったから。


「そう、サユリのこと。めごには、ちゃんと話しておきたいって思ってる」

「…!」


スプーンとフォークを、テーブルの上に置いて。珠理は、真剣な目でオジサンの方を向いた。…そして、わたしの方も。


「…でも、しゅーくん…」

「アタシは大丈夫。だから、話せるところまでは、しっかりと…話したい」

「…」


…珠理が、本気で、わたしの “誤解していること” を解こうと思っていることが、ひしひしと伝わってくる。

わたしが、さっき話を聞かないで飛び出したりしたから。

わたしが、泣いてしまったから。


こんなに、珠理はわたしと向き合おうとしてくれているんだ。でも、どうして、こんな——。


「…そうか。サユリについてね。俺は構わないよ。じゃあ、俺から話そうか」





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