ヒミツにふれて、ふれさせて。


オジサンはやさしくそう言って、何か物思いにふけるように、言葉を丁寧に紡ぎ出した。


「結論から言うとね、“サユリ” というのは、珠理の実の母親のことなんだよ」

「…!」


…ドキリとした。まさかだと思った。


“忘れられない” とか言っていたから、てっきり元恋人とか、好きな人だと…。

まさか、“母親” だったなんて。


「母親のことを名前で呼ぶなんて、なかなかないからねぇ。誰だって思うかもしれないけど…ね」

「そうよ。めごったら、思いっきり誤解してたんだから」

「…」


珠理は、わざとらしくプリプリと怒りながら、トマトを口に放り込む。

…てことは、さっき名前を呼ばれたのは、珠理がお母さんの夢を見ていたとかそういうオチ…。でも確か珠理って、お父さんもお母さんもいない…んだよね。


“アタシ、オトーサンも、オカーサンも、もういないから”

そう言っていたのを思い出す。


「…昔からね、オカーサンのことは、名前で呼ぶ癖があったの。まぁ、母親自身が、“オカーサン” よりも、名前で呼んで欲しいっていう人だったからっていうのもあるんだけどね」

「そ…、なんだ」


…なんだか、変わっている。けど、そういう家庭だってあるよね。色々なカタチがあるんだものね。



ウソをつかれているようには見えなかった。オジサンからも、珠理からも。だからきっと、本当のことなんだと思う。

第一、珠理はウソをつくような人じゃないって思う。


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