ヒミツにふれて、ふれさせて。
「オジサンが、この後送ってくれるって。あんたは、髪乾かして、早く寝な。じゃないと、風邪が悪化するわよ」
「…。はーい」
わたしに近づいて、キッチンのカウンターに背中を預けている珠理を横目に、わたしは必死に食器を片付ける。
…もー。このオネェ、早く自分の部屋に上がればいいのに。さっきのこともあるし、今はあんまり近づかないでほしいよ…。気まずさも半端ないよ。やだやだ。
でも、そう感じているわたしをよそに、このテンネンキネンブツは、わたしに次々と話しかけてきた。
「ねぇ、めご。明日じゃなかったら、いつパンケーキ食べにいくのっ?」
…自分が勝手に風邪引いてんのに何言ってんだコノヤロウ。その情けない鼻声を治してから言いなさいよ。
「…また今度のお休みの日。あんたが風邪ッぴきをちゃんと治したらね」
「じゃあ今度の土曜?」
………。
そんなに、パンケーキ食べたいのかな、この人。
「そーだね。とにかくあんたの風邪が治ったらね。完全にね」
「きゃ〜!やった〜♡」
…いやいや、そんな鼻声で喜ばれても。ていうか、その喉もやられた声での「きゃー」は迫力がありすぎだよ。イロイロと。
家に戻ってくる前の、この人の謎のテンションはなんだったんだと思いながら、着てきたブレザーを羽織って、クリーム色のマフラーを巻いた。
玄関の方から、わたしを送る準備をしてくれていたオジサンが、「準備できたらおいで」と言ってきているのが聞こえた。
それへの返事を合図に、カバンを持って珠理の方を向く。