ヒミツにふれて、ふれさせて。
「…じゃ、お大事ね」
この調子で、少しずつ熱が下がれば、またいつも通りのオネェに戻っているはず。たぶん。
そういう想いも少しだけ込めて、バイバイと手を振り、リビングのドアに手をかけた。
——— その時だった。
「……めご、」
「…!」
——…また、さっきと同じように、少しだけ鼻にかかった、でもいつもより低い声が耳元で響いたのは。
気がつくと、ドアには珠理のものであろう大きな影がうつっていて、すぐ後ろにこの人がいることが分かる。
「……ごめん。さっきの、訂正させて」
鼓膜を、ビリビリと刺激するようなその声は、本当に、本当に反則だと思う。…にげられない。
「今度の土曜、俺とデートして」
「…っ」
きれいに整った唇から、その言葉が出てきたのであろうその瞬間、ドアにかけてあった手の甲に、パタリと雫が落ちてくる。
それに驚いて、思わず後ろを振り返ると、そこには真剣な顔をした珠理がいた。
「ちょ……っと」
影ができて、目だけしっとりと光っているその表情が、きれいすぎて、逃げたくなる。それでも逃げられないから、頭の上にかかったタオルに、手を伸ばしてやった。