ヒミツにふれて、ふれさせて。


「ちゃ、ちゃんと…頭、拭いて。雫、落ちてきた…」

「…」


ゴシ、と。
横に流れている細い髪を包むと、次の瞬間には、その左手の手首を掴まれる。



「…逃げんな」


…また、その甘い声とともに。




「めご、俺とデートして」

「…っ」

「返事は?」



——— もう、頭の中がとけてしまいそう。


どうしてこの人は、こんなことをわたしにいうんだろう。どうして。

でも、はっきりと嫌だと言って手を振り払うことができないのも、どうしてだろう。

この間まで、ずっとリョウちゃんのことを考えていたのに、もう遠い昔のことのようで。

あんなに大好きだったのに、今も忘れたわけじゃないのに、どうしてだろう。


——— わたしは、ずるい。



…自分が分からなくなってきて、何も言えないまま、ぎゅっと目を閉じた。


…珠理も、ごめんなさい。2人でお出かけするって、それは分かっていたはずなのに、改めてこう言われると、どう返せばいいか分からない。


「…めご、ごめん」

「…」

「困らせたね。…でも、」



くらくら、する。



「土曜は、俺と一緒にいてほしい」




…その時、そう言われた時、素直に首を縦に振ることができたのは、どうしてだろう。分からない、けど、きっとこれも珠理と一緒に考えていかなきゃいけない “気持ち” ということは、分かる。

わたしが向き合わなきゃいけない気持ちだって、分かる。



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