ヒミツにふれて、ふれさせて。
ひやりと、少しだけ冷たい大きな手が重なった。そのまま、きゅっとその手にマフラーごと握り締められて、思わず顔を上げる。
…そこには、夕日に照らされた珠理の顔があった。
夕日のせいか、少しだけ、顔が赤い。
どんな表情なのか分からない。切ないような、何とも思っていないような、そんな顔をしている。
笑ってるわけではない。
でも、その握り締められた手だけは、力強くて。また、下を向いてしまいそうになる。
「…めごがつけて」
「…っえ、」
視線をそらすなと言うように、たたまれていたマフラーを解くと、珠理はそのまま、わたしの腕を持って、自分の首にそれをかけた。
そして、わたしの手の届く高さまで、背をかがめる。
「めごが巻いて。俺の首に」
「…っ」
ドキドキと、また心臓が動き始める。
甘ったれんじゃない、と、いつもなら言ってるかもしれない。けど、珠理が真面目な顔をしているから、そんなことが通用しないのも分かってる。
だから、わたしはそのマフラーを優しく首に巻いてあげた。
震えていた手で巻き終えると、珠理は満足そうに笑って、それを撫でた。
「…ありがとう、めご。一生大切にする」
「…っ、ど、どういたしまして…」
…わたしが、選んだ黒のマフラー。それが今、珠理の首に巻かれている。
よかった。似合う。やっぱり、黒にしてよかった。
今日の服にも、ものすごく似合ってるよ。
恥ずかしくて、下を向いた。今度は、何も制することはされなかった。
でも、そのかわり、桜貝のブレスレットが付いた左手の小指を、キュッと掴まれて。
「…ねぇ、めご」
そう、呟かれた。