ヒミツにふれて、ふれさせて。
低い声が、また黄昏時の空気に混ざって、溶けていく。
「…ん、なあに」
それに混ざるように、わたしの声も溶けた。
少しずつ、陽が短くなっているから、もうあたりは一面夕焼けだ。見渡す限り、オレンジ色に染まっている。
そんな中、珠理は、つぶやくように、でもはっきりとした言葉を、少しずつ紡いでいった。
「今日めごはカフェにいる時に、“どうして、珠理がやさしくしてくれたのがわたしだったんだろう” って言ったわよね」
「……うん」
さっきの、話のことか。珠理の周りにはたくさんの人がいるのに、どうしてわたしを気にかけてくれてやさしくしてくれたのかって、話していた時のことだ。
「どうしてじゃ、ないんだよ、めご。ここ数ヶ月で、始まった話じゃないんだ」
「…、え?」
風が、ザアッとわたしたちを包んだ。
突然の冷たい風に、周りの人たちは騒いでいたけれど、そんな声も、どこか遠くで聞こえているような、そんな感覚に包まれる。
「…俺は、ずっとめごのこと、知ってた。ずっと、高校で会うずっと前から」
「——…」
「…めごをハニーブロッサムで初めて見つけた日。俺の作った、レアチーズケーキを食べて、美味しいって言ってくれた時から、めごは俺の中で特別だったんだ」
——…また、秋風が吹いた。
でも、今度の風はさっきよりも優しくて、わたしの左手にある桜貝が、やさしく揺れた。
それが手にふれて冷たく感じた時、今までの記憶がよみがえっていく。
ハニーブロッサムに行って、一度だけ食べたことのある、レアチーズケーキ。
あの味が忘れられなくて、わたしは今までもずっと探し続けていた。
もう食べられないのかなって思っていた。また食べたいなって思っていた。
「え…?」
それが、今、まるでパズルがはまるように、なにもかものカタチが見えていく。