ヒミツにふれて、ふれさせて。
「お前、弁当食うって言って出て行ったのに、弁当机に置きっぱだったんだけど。何しに行ったんだよ」
「ゴメーン、ありがとう近海(おうみ)」
ほれ、と、目の前に弁当が置かれる。
…美濃珠理ほどじゃないけど、大きな手。聞いたことのある透き通るような声は、いつも美濃珠理の隣を歩けば必ず聞こえていた。
陸奥 近海(むつ おうみ)。
いつも美濃珠理と一緒にいる、取り巻きメンバーの1人だ。この人は男。どうして美濃珠理と一緒にいるのだろうと思うくらい、普通の男子だ。
この人もわりと背が高めで目立つから、美濃珠理と並ぶとかなりの迫力。
陸奥 近海は、わたしと瀬名に気づくと、「ん?」と声を出した。
「あぁ、きみが桜井芽瑚さん?」
…なんなんだ、美濃珠理の周りは綺麗なやつらしかいないのか。
「…はい。桜井芽瑚です。こちらが友達の三河 瀬名」
「へぇ。はじめまして。俺、珠理と腐れ縁の陸奥 近海って言います。よろしくね」
…知ってます。
「最近ね〜、コイツ俺らのことほっぽって、めごちゃんとこばっかり行くからさ」
「…はぁ」
「友達になれたの、相当嬉しかったっぽいよ。めごちゃんも瀬名ちゃんも可愛いもんね」
「…」
ちゃ、ちゃらいな〜〜〜〜!
なんなんだろう、この人たちは。この人たちの世界では、初対面の女の子に「可愛い」って言うのは普通のことなのでしょうか。
だとしたら、わたしが住める場所ではないので、そっとしておいて欲しいのだけれど!
…でも、小心者のわたしが、そんなことを言えるわけがなく。ただ、陸奥近海の言葉に「ハハハ…」と笑うことしかできなかった。