ヒミツにふれて、ふれさせて。
3人が、ワイワイと普段の話に戻って、空気が明るくなっていく。
だから、珠理のあの行動は、なんでもないことみたいになった。
…でも。やっぱり。
“アタシ、オトーサンも、オカーサンも、もういないから”
「…………」
あの時の珠理の言葉が、どうしても心の奥底に突き刺さっている。
聞き間違いなんかじゃないはずだ。あの時は何でもないように言っていたけれど、でも。
どうして、サユリさんは生きているのに、“いない” ことにされていたんだろう。
「……」
お弁当の蓋を閉じながら、考え込んでしまった。普段通りの珠理だった。あの言葉をわたしに言った時は。
オジサンと2人で住んでいるんだって、何でもなく言った。そして、“サユリ” と初めて呼んだあの夜、サユリさんについて話してくれた時も、なんでもない顔をしていた。
…でも、どこか、引っかかる。
今になって、思い出してしまう。
“サユリ” と、呟いた時のこと。わたしの存在に気づいた時、まるで縋り付くようにわたしを抱きしめたこと。
“サユリのこと、話していい?” と、オジサンに言っていたこと。
最近、スマホが震えるたびに、それをしまい込むようにして、ポケットに手のひらごと突っ込んでいたこと。
小さな、小さなことだったのに、それのひとつひとつを覚えていたわたしの心は、モヤモヤと渦巻いて。
“どうして?” が、募っていく。
「…めご?」
「…!」
はっと、我に帰った頃には、瀬名の白い手のひらが、ひらひらと目の前を舞っていた。