ヒミツにふれて、ふれさせて。
わたしは、がちがちに固まっていた手のひらを少しずつほぐしていって、一本ずつ指を開いた。
最後の一本が外れると、珠理の身体は思い出したように力が抜けて、わたしに身を預けてきた。
…わたしは、その解けた指を自分の手に絡めて、やさしく握った。
「…ハニーブロッサムに来ても、アタシはしばらく心を閉ざしたままで。叔父さんに対しても、中学生になった近海に対しても、心を開くことなんてできなかった。あの頃は、ただ毎日が過ぎていくのを感じていただけだったわ」
「……ん」
「でも…、ある日ね。叔父さんがアタシに、“一緒に新作のレシピを考えてほしい” って言ってきたの」
「…新作のレシピ? ケーキの?」
「そう」
…そういえばさっき、サユリさんがケーキ作るのが好きだったからって、一緒に練習したって言っていたな。
美濃家は、ケーキ作りが好きなのかな。
「…最初は、まぁ暇だから良いかなって感じだったの。ケーキ作りは嫌いじゃなかったしね」
「うん」
「その日から、何日かに渡って、叔父さんと新作ケーキのレシピを考えてた。そしてね、やっと完成したの」
「………」
…“新作ケーキ” という言葉に、ハッとした。
思わず身体を起こして、珠理の方を見る。珠理は一瞬びっくりした顔をしていたけれど、その表情は少しずつほぐれて、やがて小さな三日月のような目で、笑ってくれた。
「———…、気づいた?」
やさしく、そう、つぶやいて。
「…っ」
その、向けられた笑顔。言葉。すべてが、わたしの中の記憶と、結ばれていく。
——あぁ。
思わず、涙が出てくる。