ヒミツにふれて、ふれさせて。


そうだったんだ。
そうだったんだ。


“あの”ケーキ” には、そんな物語が詰められていたなんて。



「…しゅ、珠理の…っ、珠理の、レアチーズケーキ…」

「ふふふ、正解」



タガが外れたように、ぼたぼたと降ってくる大粒の涙。

あの日、ハニーブロッサムに通い詰めていたわたしに、オジサンが食べさせてくれた試作品のケーキ。



…わたしが、今も忘れられない味。




「…っ、う、嘘…っ」

「嘘じゃないよ。だから言ったじゃん。“それを美味しいって言ってくれためごを、俺は好きになった”って」



…あぁ。そうだったんだ。


あの時の珠理の告白には、まだ続きがあって。

あのレアチーズケーキは、つらいことをたくさん乗り越えてきた珠理が、最初に心を開いた瞬間。

心を閉ざしていた珠理が、頑張って頑張って、作り上げたもの。



「…ふっ…、なんで泣いてんの」



珠理は、もうすっかり力が抜けていて。

その大きな手で、また涙を拭ってくれた。


「…っ」


…泣いちゃうよ。だって、そんなに大切なケーキに、わたしを出会わせてくれたんだから。



「…どうりで、どのお店のものにも勝てないわけだよ…。だって、珠理の想いがたくさん…たくさん詰まったケーキだもん…」



ずっと、探していたんだよ。
あの時食べた気持ちを、忘れられなくて。今でもそれは、ちゃんと覚えているんだよ。



「…うん、ありがとう。俺も、あの時のめごの笑顔が忘れられなくて、ずっと諦められなかった」

「…っ」



わたしが、リョウちゃんと出会って。

1人じゃなくて、リョウちゃんとハニーブロッサムに来るようになっても。

1人でなんとなく、足を運んでいた時も。



珠理は、ずっとずっと、あの日のわたしのことを、想っていてくれたんだ。



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