ヒミツにふれて、ふれさせて。


「とりあえず、珠理が元気になってよかったわ。じゃ、あたしもクラスに戻るから」

「あ、うん。わざわざありがとうね、茶々ちゃん」

サラサラの髪を揺らしながら、茶々ちゃんは教室を出ていった。ドアを出るときには、ちらっとわたしたちの方を見て、手のひらを振ってくれた。

…よかった。なんとか、大切な人たちにはきちんと話せたよ。この後、学校中にウワサが広がるのは、時間の問題かもしれないけど。





わたしたちのクラスの一限は、古典だった。今はもう、ほとんど使われない古語が並べられるのと同時に、冬の暖かい日差しが窓から入り込んで、思わず居眠りしそうになる。

まるでわたしの邪魔をしてやろうとでも言うように、太陽が机を照らすから、その眩しさに目を細めていると、外の寒い運動場には、E組の子たちが体育をしていた。

…珠理もいる。背が一番高いのに、小さく丸くなって。



「清少納言は、中宮定子に仕えていたんです。そして枕草子というのは当時の……」


じっと、珠理の様子を見ていると、先生の声やチョークが黒板を擦る音が、次第に遠くなって行く。

その分、焦点は外にいる珠理に合っていって。

「…」

…そういえば、今まで珠理が体育をしているところとか、じっくり見たことなんてなかった気がするなあ。

うちのクラスと珠理たちのクラスは端と端だから、一緒に体育をすることなんてなかったし。

…体育は無駄に汗をかくから嫌だって、前にそう言っていたのは、なんとなく覚えているけど。



珠理たちは、体育倉庫から数本のテニスラケットを持って来ていた。E組男子は、今テニスをやっているらしい。

相変わらず近海くんと笑いながらネットの準備をしている珠理を、じっと目で追ってしまう。

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