ヒミツにふれて、ふれさせて。


こうやって見ると、本当にふつうの男の子なんだよな。少しだけ、仕草が女の子っぽいことはあるけれど。


「…」

ボールをラケットで打つ姿は、まるで経験者のように手慣れている感じがする。打つときに力強く鳴る音もきれいで、走る足も早くて、そして綺麗で。

近海くんとペアを組んで、パコンパコンと打ち返して行く姿は、不覚にもかっこよく見えてしまった。


…珠理って、本当にずるいよなあって思うよ。少し、羨ましくなるくらいに。

だって、わたしなんかよりもずっと、完璧なんだもん。


「…体育嫌いなんて、嘘じゃん…」


珠理がモテるのは知っていた。周りの女の子たち、学年の子、学校の子、みんなが珠理のことを知っていることを、わたしはもう知っている。

それでも珠理は、なんの取り柄もない、目立たないわたしを、あんなにも好きでいてくれているんだ。

…それってちょっと、信じられないくらい、嬉しい。


「…」


目線の先にいる、綺麗で運動をする姿もかっこいい人が、今はわたしの一番近くにいる人なんだって思うと、ぎゅっと胸を掴まれた感覚になるよ。



“ おいしいって言ってくれためごを、俺は好きになった… ”


「……」


珠理がわたしを好きになってくれたことなんて、本当に奇跡。

きっと、わたしがハニーブロッサムを好きにならなかったら。あの日、その場に行かなかったら。オジサンと、仲良くならなかったら。

きっと、わたしと珠理は、交わることなく生きていったんだと思う。


…そう考えると、少し怖い。


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