ヒミツにふれて、ふれさせて。


あの日、珠理がドアを開けた時の表情を思い出す。あの顔をする前に、近海くんとそんな話をしていたんだ。

…聞くまで、全然分からなかったや。



「…めごちゃんはさ、あの日、アイツから珠理の話は聞いた?」

「……あ、うん……」

「…そうか」


“ 珠理の話 ” というのは、きっと珠理が小さかった頃の話。わたしと近海くんしか知らない、珠理のヒミツ。




「…ちゃんと受け止めてくれて、ありがとうな」


少しだけ寂しそうに、じっとどこかを見つめている近海くんの前髪が、隙間から入ってきた冬の冷たい風によって揺れた。

…ずっと、珠理のことをそばで支えてきてくれた近海くん。いつも、珠理に振り回されて疲れてる顔をしてるけど、きっと珠理は近海くんの愛情にも包まれてきた。


「今、アイツはすごく笑うし、冗談も言うし明るい奴だけど、前はそうじゃなかったんだ。中学入ってからは、元気に振舞ってた時もあったけど、やっぱりどこか不安定になる時もあってさ」

「…うん」

「……今でも、思う。あの日、珠理が家を飛び出して外を歩いていた日。あの日に俺がアイツを見つけられなかったら、アイツはどうなってたんだろうって」

「…近海くん」


近海くんの親指の爪が、隣にあった人差し指の腹をグッと押した。痕がついてしまうんじゃないかと思うほど、力が入っている。

…きっと、昔のことを思い出してくるしくなるのは、近海くんも同じ。


「…珠理のお母さんはさ、珠理のこと大事にしてたんだよ。綺麗で、すごくいいお母さんだった。でもやっぱり、色々な事情があって、珠理に対しても牙を向くようになってしまったんだろうな」

「…うん、そうだね」



…そして、珠理は今の珠理になった。珠理からはそう聞いていた。


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