ヒミツにふれて、ふれさせて。


グッと肩を掴まれて、わたしはいつの間にか、そのまま珠理の胸の前。


「ごめんなさいね。つい最近、中学から大事にしてきた想いがようやく叶ったのよ。だから、そんなこと言わないで見守っててちょうだい」

「…っ」


周りの顔が見れない。珠理の、ゆっくりとした心臓の音と、体温しか感じない。
近海くんや、ほかの女の子たちが、どんな顔をしてるのか、見られない。


「さ、めご。帰りましょう」

「ちょ…」


いつもより強引に手を引かれて、珠理はそのまま教室を出ようとする。手首を掴んでいる大きな手は、力が込められていてビクともしない。

さっきまで一緒に話していた近海くんを、何も言わずに残してきたことを思い出したから、そのまま彼の方を振り返る。

すると、近海くんは全て分かっているような顔をして、そのまま手を前に降っていた。

…このまま、珠理に付いていけって、そう言ってくれているみたいに見えた。





珠理とはそのまま学校を出て、駅に向かった。珠理はそのまま帰ればいいのに、そのまま電車に乗り込んだ。
…そこまで、珠理は終始無言。でも、電車に乗ってからもずっと、その大きな手はわたしを離さないように、ギュッと捕まえられていた。


『次は〜、長谷駅、長谷駅に止まります』


ギュウギュウに人が詰まっている車両。

駅に着くと、まるでパンパンになった風船が弾けるように、人が電車から出て行った。

わたしたちは、その人だかりが少しだけ去ってから、静かに駅に降りた。


狭いホームを、手を引かれて降りて行く。線路を渡って、すぐ隣の道路に出たところで、珠理はようやくわたしの方を向いた。


「…めご、ちょっとだけ寄り道していい?」


そして、真顔でそんなことを聞かれる。


「…う、ん…。構わないけど…」

「そう?じゃあちょっと、こっち…」

「…?」


そのまま、クイっと腕を引かれた。珠理は少し前に行った、パンケーキのお店に行くときに通った道を歩いて行く。

まさか、そこに行くの?と、思ったけど、どうやらそうではなかったらしく、その道沿いに広がっている由比ヶ浜の方に向かって降りて行った。


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