ヒミツにふれて、ふれさせて。


「…珠理、海に来たかったの…?」


トントンと、階段を降りて砂浜に向かっている珠理の背中に問いかける。何も言わずにずんずんと進んで行く彼の先には、もうすっかり人も居なくなった砂浜が広がっている。

…冬はこの時間でも真っ暗だから、もう夜の海のようだ。


「…やっぱり、いつ見ても海草だらけよね、ココ」


珠理は、砂浜に入る階段の、下から二番目の段に腰掛けながら笑った。

わたしも手を引かれて、そのまま珠理のとなりに座る。その瞬間に、腰をグイッと引き寄せられた。寒いから近くに来てってことかな。


「前に、パンケーキ屋さんに行く時通ったら、まだヨットに乗ってる人いたよね」

「そういえば、いたわねぇ。もうこの季節はやってないのかしらさすがに」

「日も暮れちゃったからね」


…まだ、ほんの少ししか、時間は経ってないはずなのに。あの日から、随分経ったように感じるのは何故だろう。

人間の感覚って、本当に不思議。


…ザァアと流れる潮の音を聞いて、星が輝き始めた空を見上げていると、頭に軽い重みがかかった。珠理の手だ。

髪の毛の間を滑るように指が入り込んで、わたしを包む。クッと珠理の方に寄せられたかと思ったら、そのままコツンと、すぐとなりにあったその頭が当てられた。


「…めご、さっきはごめんね」


…そして、静かに呟かれる声。


「呼び出されたこと、隠すつもりなかったの。でも、自分からアンタに話すことでもないと思ってたのよ」

「…うん、わかってるよ」


珠理の考えてること、なんとなく分かってるよ。きっと今までもそうなんだ。隠して来たつもりでもないけど、わたしが知らなくていいことは、知らないままにしてくれていたんだ。

それが、珠理のやさしさ。


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