ヒミツにふれて、ふれさせて。


それからは、お母さんに呼ばれるまで、珠理の腕の中で過ごした。

一度、アメリカへ行く話は取りやめて、学校でのことや、冬休み期間中の話をした。



…お母さんに、「ご飯よ」と呼ばれたのは、それから20分後。


「…できたって。さっき玄関が開く音がしてたから、お父さんも帰ってきてるかも」

「まぁ大変。またちゃんとご挨拶しなくっちゃ」

「はは」


エアコンと、ヒーターと、部屋の電気のスイッチを消す。その代わりに、階段の電気をつけた。


「…さ、行きましょうか」

「——…」


珠理から、差し出される手。わたしより一歩先に出て、待っている。


「——…ねぇ、珠理」


そうやって、いつも先回りして、わたしのことを受け止めるように、待っていてくれているんだよね。

…珠理は、いつもいつも、そうだった。




「—— アメリカ、行ってきていいよ」




…だから、今度はわたしが待つことにする。

珠理の帰りを、ずっと、腕を広げて待つことにするよ。



小さくそう呟いた。でも、はっきりと聞こえるように、珠理に伝える。

もう、言わない。だって、言うのも本当はつらいから。
だけどやっぱり、「行かないで」の5文字だけは言いたくないんだよ。


「……っ」


パチンと、電気が消えた。珠理が押したんだと思う。

でも、それに気づいた頃にはもう、わたしのくちびるは、珠理の熱いそれにふさがれていて。


「…っん」


声を、押し殺すことしかできない。



「…は……」



一度ふさがれただけでキスは終わった。再び電気を付けた珠理は、なんだか切なそうな顔をしていたけれど、「行くわよ」と、そのまま笑ってくれた。



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