ヒミツにふれて、ふれさせて。
「…突然押しかけてきた日にする話ではないのかもしれませんが、俺は、4月から母の実家があるアメリカに渡ります」
「……」
………珠理。
「えっ…!?アメリカ!?珠理くんのお母さん、アメリカ人なの…!?」
ざわつく家族。でも、そうだよね。わたしもサユリさんがアメリカにいるって知った時は、本当に信じられなかったくらいだから。
…驚いても、仕方ない。
「…いえ、母は日本人です。でも、生まれた時からずっとアメリカに住んでいました。俺は、母が日本に来て俺を産んでからこれまで、日本で育ちました」
「へえ…」
「詳しいことを話すと長くなるので割愛します。これから俺のことは、少しずつ知っていっていただけたらと思います。でも、その前に…」
…珠理は、たまに見せる、“ 男の人 ” の顔で、わたしの家族を見据えた。
「…その前に、俺はめごを、1年間日本に置いていくことになります」
「……っ」
となりに座っていたわたしは、いつのまにか、膝の上に乗っていた左手を握られているのに気づいた。
…また、涙が出そうになる。
「…急な話でした。クリスマスにその話があがって、学校の手続き等がある関係で、急いで決断をしました。めごにも、今日、向こうに行くことをハッキリと伝えたところです」
「…っ」
「今日も、たくさん泣かせました。俺の勝手で、たくさん辛い思いをさせてしまいました。でも、これから向こうの高校を卒業して戻ってくるまで、またさらにたくさん、辛い思いをさせることになると思います」
…ギュッと、握られていた手に力が入る。わたしは、溢れそうな涙を我慢するために、下を向いてくちびるを噛んだ。
ここで泣いたら、ダメだと思った。
「俺は、めごのことが本当に、何よりも大切です。これからもずっと、何があっても守り抜いていきたいと思ってます。最近出てきた子どもが何を言ってんだって思うかもしれません。でも、どうか大学生になって会えるまでの時間、めごのことをよろしくお願いします」
「……っ」
…「生意気でごめんなさい」。最後にそう呟いて、珠理はお父さんとお母さんに頭を下げた。