ヒミツにふれて、ふれさせて。
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珠理がアメリカに発つ日は、雲ひとつない、真っ青な空が広がった1日だった。
その日は、朝からみんなで鎌倉駅に集まって、オジサンの車で一緒に成田駅に向かった。
オジサンの車が、全員乗れるくらい大きな車でよかったね、なんて話しながら。
3月は、「別れの季節」なんて言われているからか、はたまた春休みの旅行客なのか、空港はたくさんの人たちで溢れかえっていた。国外線がある広い空港。そこを歩く人たちは、珠理と一緒で大きな荷物を持つ人ばかり。
そんな中で、わたしたちは5人集まって、珠理を囲んだ。
それでも、生まれてくるのは、いつもの会話と変わらない。
「…お前な、こんなところに来てまで引っ付き虫になるのはやめろよ…」
「いやっ…!だってもう、めごにこうやってハグのひとつも出来なくなるなんて…っ、めごの匂いが嗅げなくなっちゃうなんて…っ、アタシしんじゃうわ…!」
「…」
…オジサンもいるというのに、この珠理のマイペース加減。さすがにここに来てはないだろうと思っていたけど、まさかだった。
そんなことなかった。本気で言ってるわけではなさそうだけど、いつも学校でやってきた通りに、この公衆の面前でも抱きつかれている。いや、学校も公衆の面前だけど。
「はははは、きみたちは本当に面白いなあ」
「珠理のオジサン…。まじでちょっと笑ってる場合じゃないですって。コイツ学校でもこれなんですよ」
腕を組んで、呑気に笑っているオジサンに、近海くんは呆れながら注意している。珠理の大胆行動やそれに対するツッコミを「面白い」と言う大人も、なかなかいないだろう。
「うん、それは重症だね。でもきっと、近海くんが何とかしてくれてたんだよね」
止まらない笑い声をあげながら、息苦しそうにお腹を抑えている。まったく、重大なこととは捉えられていないようす。甥っ子と合わせて、困った人だ。
「ほら、クソオネェ。早く保安検査場行かねーと、飛行機に置いて行かれんぞ。チケット代無駄にしてもいいのかよ」
見兼ねた近海くんが、ゲシッと珠理の足を蹴りながら、わたしから珠理を引き剥がす。「やだーっ、めごぉ」という寂しそうな声とともに、その巨体は一旦離れていった。