ヒミツにふれて、ふれさせて。
珠理は、少しだけ笑って、わたしたちの方を向いた。
一度、わたしたちひとりひとりを見た後、その綺麗なくちびるが動き出す。
「…みんな、今日は来てくれてありがとう」
「…っ」
珠理の、「行ってきます」のあいさつが、始まる。
「…瀬名ちゃん、茶々。今まで仲良くしてくれてありがとう。お昼とか、アタシのお誕生日会とか、とにかく、一緒にいてものすごく楽しかった」
「…珠理………っ」
今まで、あまり言葉を発していなかった茶々ちゃんが、数滴の涙を流しながら、珠理の名前を呼ぶ。
「突然こんなことになって、色々と心配かけてごめんなさい。でも、めごのこと、たくさん支えてくれてありがとう。瀬名ちゃんと茶々がいるから、めごのこと、安心して置いていけるのよ」
「…ミノくん………」
「珠理…っ」
「…めごのこと、これからもよろしくね」
涙を拭くふたりに、珠理は大きな手のひらを差し出した。
…握手だ。
ひくひくと、細かく動く喉を抑えながら、瀬名と茶々ちゃんは、その手のひらを握った。
ぎゅっと、強く。
ふたりは泣いているのに、珠理はそのやさしい笑顔のまま、その様子を見守っていた。
手のひらが離れると、そのまま、隣でふたりを見ていた近海くんに、視線を移す。
「……近海、」
「……なんだよ。俺にはあいさつなんていらねーよ…」
珠理が近づくと、近海くんは少しだけ後ずさり。
複雑な表情をしたまま、珠理とは目を合わせないように下を向いた。
「…近海」
「なんだよ、いらねーって」
「…」
…でもね、近海くん。
近海くんの気持ち、わたしも、少しだけ分かる気がするよ。