ヒミツにふれて、ふれさせて。


珠理は、少しだけ笑って、わたしたちの方を向いた。

一度、わたしたちひとりひとりを見た後、その綺麗なくちびるが動き出す。



「…みんな、今日は来てくれてありがとう」

「…っ」



珠理の、「行ってきます」のあいさつが、始まる。



「…瀬名ちゃん、茶々。今まで仲良くしてくれてありがとう。お昼とか、アタシのお誕生日会とか、とにかく、一緒にいてものすごく楽しかった」

「…珠理………っ」


今まで、あまり言葉を発していなかった茶々ちゃんが、数滴の涙を流しながら、珠理の名前を呼ぶ。


「突然こんなことになって、色々と心配かけてごめんなさい。でも、めごのこと、たくさん支えてくれてありがとう。瀬名ちゃんと茶々がいるから、めごのこと、安心して置いていけるのよ」

「…ミノくん………」

「珠理…っ」



「…めごのこと、これからもよろしくね」



涙を拭くふたりに、珠理は大きな手のひらを差し出した。

…握手だ。


ひくひくと、細かく動く喉を抑えながら、瀬名と茶々ちゃんは、その手のひらを握った。

ぎゅっと、強く。


ふたりは泣いているのに、珠理はそのやさしい笑顔のまま、その様子を見守っていた。




手のひらが離れると、そのまま、隣でふたりを見ていた近海くんに、視線を移す。




「……近海、」

「……なんだよ。俺にはあいさつなんていらねーよ…」



珠理が近づくと、近海くんは少しだけ後ずさり。
複雑な表情をしたまま、珠理とは目を合わせないように下を向いた。


「…近海」

「なんだよ、いらねーって」

「…」


…でもね、近海くん。


近海くんの気持ち、わたしも、少しだけ分かる気がするよ。





< 382 / 400 >

この作品をシェア

pagetop