ヒミツにふれて、ふれさせて。
いつか、わたしが珠理にプレゼントとした、黒いマフラー。
そんなもの、もう要らない季節なのに、わたしがあげたものだからと、出発の日は付けたいからと、付けてきてくれたもの。
それが、目の前に垂れ下がっていたから、思わずそれをやさしく引っ張った。
その瞬間、少しだけざわめいた空気。
後ろで一瞬だけ響いた、甲高い声。
そんなことも気にしないで、わたしは、素直に降りてきたそのくちびるに、やさしく触れる。
…本当は、恥ずかしいんだよ、こんなこと。
だけど、わたしだって、珠理のことが好きだって気持ち、忘れて欲しくないから。
珠理が、わたしのことを忘れないように、今のうちに刻んでおくね。
「………今のが、返事!」
…好きだって気持ちを、ずっと忘れないでいようね。
珠理。
絶対だよ。
「……めご、アンタって本当、最高…」
力が抜けたのか、へなへなと崩れていく珠理に、みんなが笑った。わたしも、なんだか面白くなって、つられて笑った。
空港に、明るい笑い声が響いていた。
薬指にはめられた輝かしいそれは、静かに、最後までキラキラと輝いていた。