ヒミツにふれて、ふれさせて。




「それじゃ、行ってくるわね」



本当に時間がないからと、珠理はわたしのおでこや頰に少しだけくちびるを押し当てながら言った。


「おう、早く行け。目の前でそんなもん見せつけられる俺らの気持ちも考えろよバカップル」


近海くんの、呆れた顔。

もうすっかり、いつも通りの空気だ。



「なに?近海も、してほしーの?」

「てめぇ本気で言ってたらころすからな」

「あらやだ!照れてるのね」

「ほろびろ」



ゲシ!と、近海くんはまた珠理の足元を蹴った。


それにまたみんなで笑って。


…少しだけ、空気を整えたあと。





「……じゃあ、行ってきます…!」





珠理は、今までで一番の笑顔で笑った。

その、大きな手を振りながら。




「おう、またな」




近海くんの声を合図に、わたしたちも大きく手を振って。



何度も何度も振り返るその大きな背中を、



ずっと、ずっと



最後まで、見送っていた。







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