ヒミツにふれて、ふれさせて。



「………おいで」

「…!」



頭がハテナマークで埋め尽くされて、何も分からないうちに、持っていたカップを取り上げられた。

そしてそのまま、たくさんの人たちの中をすり抜けていく。


気がついたら、冷たいクーラーの風が当たるその空間から、真夏の太陽が当たる蒸し暑い空間へと、移動していて。


ファミレス専用の駐車場の陰で、わけも分からないうちに、その大きな身体に包まれる。




「…暑いけど、ごめんね」


「———…っ」




…うそ、本当に…?


本当に、今、目の前にいる人は、珠理なの…?




「………っ、珠理…?」

「そうよ」

「…えっ、えっ? 帰ってきたの…?」

「うん、ただいま♡」

「…え? 1週間後じゃ、なかったの?」




だって珠理は、1週間前に、1週間後の日曜日に帰るって言ってた。

瀬名も、茶々ちゃんも、近海くんも、そうだって言っていたのに。



「…そんなに待てないわよ。めごを驚かしたくって、めごにだけ内緒で、帰ってきたの♡」

「へ……」

「びっくりした?」

「…っ」



——その瞬間、その言葉とともに、懐かしい笑顔が広がった。


少しだけ眉毛を下げて笑う、その癖。


その笑顔に太陽の光が反射して、もう、訳がわからないくらいに、胸がしまる。


忘れていたかのように、身体中に血液が回り出す。
どきどきと、心臓は跳ねて、指の先まで、振動が伝わってくるのが分かる。


…うそ。


本当に、珠理が、帰ってきた。




「…っもう…、せっかく…っ、せっかく会う前にって、美容室予約したのに…」



こんなサプライズを計画していたなんて、全然知らなかったよ。

もう、帰ってきているなんて、気づかなかったよ。


…なんなのよ、ずるいよ…。



珠理のために少しでも可愛くしておこうって、色々と計画立てていたのに。

…もう、そんなのも、意味がなくなるじゃない。



「ごめんね。でも、今のめごも世界一かわいいわよ。髪も伸びたね。大人っぽくなった」

「…っ、う」




…でも、そんなこと、もうどうでもよくなるくらいに、うれしい。





ねぇ、珠理。


やっと会えたね。



突然こんなことになって、「ただいま」なんて言われて、本当にいまだに、訳がわからないけど。




……心の底から、うれしいよ。






< 396 / 400 >

この作品をシェア

pagetop