ヒミツにふれて、ふれさせて。
降りてきた影は、そのまま1つに繋がった。
わたしに触れたくちびるは、夏の暑い気温よりも、冷たい感じがした。
「…やっと、触れられた。このくちびるが、欲しくて仕方なかった」
「……言い方。やらしーよ」
「あら、やらしーって何よ」
ぷう、と頰を膨らませる珠理。でもその顔はすぐに真剣な顔つきになって。
「…俺が欲しいの、キスだけじゃねーから。今日は覚悟して」
「…!!」
久しぶりに聞かされる、“ 男の人の珠理 ” の声に、身体がすぐに沸騰してしまう。
「…っちょ、真昼間からそんなこと言うのやめてくれる!?はしたない!!」
「あら、じゃあ日が暮れたらいいの?めご、今一人暮らししてるのよね?」
「ちょっと待て!何を考えてんのよ!」
夏の暑い空気と、久しぶりの珠理からの攻撃に、頭がクラクラしてくるよ。
「アメリカでの生活、楽しかった?サユリさんとは、ゆっくり過ごせたの?」
半分おふざけが入っていた珠理を制して、そのまま向き直る。
「うん、まぁね。サユリとは、最初は色々考えることもあったけど、それなりに楽しく過ごせた。仕事もちゃんと頑張れてたし、かなり安定してたと思う。また、冬には日本に来るって言ってたわよ」
「そっか、よかった…」
…ちゃんと、家族の時間も、過ごせた1年だったのかな。
このことについても、後々ちゃんと、お話を聞いてあげよう。
「でもやっぱり、アタシは日本の方が生活に合ってるって思っちゃった。英語もあまり得意じゃないしね。めごもいないし」
「何言ってんのよ」
…でも、よかった。
珠理が、ちゃんと約束通り、日本に帰ってきてくれた。
それだけが、うれしい。
それだけで、じゅうぶんだよ。
・
「おっ、いたいた〜〜。お前ら早速イチャイチャしてんのかよ、公衆の面前で」
「珠理〜〜〜〜っ!おかえりぃ〜〜!」
「おかえり、ミノくん」
迫ってくる珠理の身体を必死に押さえつけていると、ファミレスの出口から3人がぞろぞろと外に出てきた。
…珠理が、今日ここに帰ってくることを知っていた人たち。
泣いている、そして赤くなったわたしを見て、ものすごく満足そうな顔をしている。
…今回は、本当にしてやられた。
悔しすぎるよ。