ヒミツにふれて、ふれさせて。


お弁当箱の中身を、口の中に放り込んでは、黙ってそれを噛んで飲み込んだ。



“ 美濃にはすげー好きな人がいるって ”

「………」


どうでもいいことなんだけれど、清水くんのさっきの話が頭の中に流れてくる。

中学生の珠理が少しだけ垣間見えた。過去のことだし、今の珠理をどうこう言うつもりはないけれど、そんなにあの子のことが好きだったのならやり直せばいいのに。

…と、思ってしまう。

わたしは、リョウちゃんと離れるなんて考えられない。好きなら、ちゃんと側にいてやればいいんだ。

ずっと好きだった彼女と付き合えたのなら、なおさら。

…どんな理由があって別れたのかは、知らないけど。



「桜井さーん」


最後のおかずを口に放り込んだ瞬間、まさかの本日2回目の名字呼び。

クラスの廊下側の席に座っている田中さんだった。


「ん?なに?」

「ごめんね食べてる時に。なんか、2年生の子が桜井さんに用事あるって来てるんだけど」

「えっ?」


2年生の子がわたしに用事?

年下に知り合いの子なんてほとんどいないけど、誰だろう。

廊下にいるってことだったので、お弁当を片付けて向かった。でも、嫌な予感しかしない。

2年生の子…まさかとは思うけど。


廊下に一歩踏み出して右を向く。

その先には、サラサラヘアーの毛先を巻いて、ツインテールにした小さい広瀬す◯が見えた。


「ちょっと!来るのが遅いんだけど!」


…うわ。そのまさかだった。



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