ヒミツにふれて、ふれさせて。
「——、めご」
「……」
低い声が、すぐ近くで聞こえた。重ったるい首を左に回すと、そこには美しい顔が目に入る。
「…しゅ、り」
整った顔。いつ見てもわたしより遙かに美人だ。
「…アンタ、大丈夫?瀬名ちゃんから、倒れたって聞いたから。驚いちゃったわ」
「——…ん」
右肩に、カバンを2つ下げている。カーテンの向こうには、オレンジ色の光が差し込んでいた。その色の調和と情景から、もう放課後だと気づく。
「…あんた、なんでこんなとこにいんの」
重い身体。どうしても、すぐに起き上がらせる気にはなれなくて。でも、珠理の方を素直に向く気にもなれなくて、そのまま背中を向けた。
「アンタが心配だから来たのよ。悪い?」
「…」
そんなことだろうと思ってしまう自分が、もう嫌だ。わたしは、珠理に優しくされて当たり前だと思うようになってしまった気がする。
…こんなこと思ってるって、あの子に知られたら、またきっとものすごい目を向けられてしまうんだろうな。
「…お昼休み、茶々が来たって聞いたわ。その後倒れちゃったんでしょう、アンタ」
「…」
「…何か、言われた?あの子が迷惑かけてるせいで体調崩したとか…」
「そんなんじゃないから」
体調なんか、崩した覚えはない。ただ、少し立ちくらみがしただけ。貧血か何か起こしただけに決まってる。
…あとは、リョウちゃんのことがあってから、また眠れなくなっていたから。
きっと、ただそれだけ。
「本当にあの子のせいじゃない。だから謝る必要ないし、心配してくれなくて大丈夫だよ」
「…」
なんでこう、イライラしてしまうんだろう。この気持ちの正体がまるで分からないよ。自分の恋愛が上手くいっていない、当て付け?
だったら、最低な女じゃないか。