ヒミツにふれて、ふれさせて。
———次の日。
「桜井芽瑚はいるっ?!」
朝っぱらから、ソプラノの声が響き渡った。クラスメイトからの視線が痛くて、絶対に出ていきたくないと思ってしまったけれど、ソプラノの主からは簡単に見つかってしまって。
「ちょ、茶々ちゃん…。お願いだから静かに呼び出して…」
わたしは、朝っぱらから廊下で壁ドンを食らっている。
「静かになんて呼び出せるわけないでしょう?!いいから聞きなさいよ!ていうか茶々のこと気安く名前で呼ばないでくれる?!」
「すいません。てか、今度はなに…」
クソ、昨日珠理と帰ったところ、見られてたのかな。だとしたら本当に面倒くさいよ、あのオネェの容姿が目立つから悪いんだ。
「昨日!珠理に完璧にフラれたわ!!」
「……え」
何を言われるかと覚悟していたけれど、降りかかってきた言葉は意外なものだった。意外というか、珠理の気持ちは分かっていたけれど、まさかこんなことになっていたとは。
「…昨日!また珠理にフラれた!もう茶々とは恋人にはなれないって…!これから先も…っ、恋人にはなれない…って…うわああああ〜〜」
「?!」
涙をいっぱいに溜めていたかと思うと、目の前の広瀬す◯は思いっきり声を出して泣き出した。
なんだなんだと見にくるクラスメイトをよそに、わたしは困り果てて、とりあえず持っていたハンカチを差し出した。
「そかそか、それを聞いて欲しくてわざわざわたしのところに…(?)」
「うわああああん、珠理のばかああああ」
こんなに可愛い子が、目の前で泣いているというのに、わたしはただその小さな口から吐き出される悪口を聞くことしかできなかった。
…でもま、珠理はちゃんとこの子のことフッたのか…。いつの間に。まぁいいや、考えないでおこう。