ヒミツにふれて、ふれさせて。


あの江ノ島でのケンカ以来、リョウちゃんからの連絡は途絶えていた。1週間何も来ない時なんて、今までざらにあったけれど、もう2週間以上も経過している。

2週間以上空くことは、あまりない。というか、今までなかったかもしれない。


電話しても、メールしても連絡がかえってくることはなかった。


そして今日も、何も進展がないまま、朝を迎える。


「…さむっ」


10月に入った。秋の色がさらに濃くなって、朝と夜は肌寒くなってくる。

制服は夏服から冬服に変わった。ブレザーを着るにはまだ早いから、薄桃色のカーディガンを羽織って家を出る。


『———二番線に、鎌倉行きの電車が参ります』


いつもの長谷駅。夏よりも澄んだ空気が、わたしを包んでいるように感じる。

緑色とクリーム色の電車がやってきて、それに乗り込んだ。

前に、江ノ島電鉄でリョウちゃんと江ノ島に行ってから、もう随分と時間が経っているような気がする。

少しだけ、心にぽっかりと穴が空き始めているような、なんとなく寂しい気持ちになってくる。

…でも、それはきっと、この季節のせい。



「めごちゃん」


鎌倉駅に着くと、改札口を出たところで声をかけられた。

振り向くと、グレーのカーディガンを羽織っている近海くんがいた。


「近海くん、おはよう」

「おはよう。なんかこの時間に駅で会うって珍しいね。今日早くない?俺も、めごちゃんも」


相変わらず爽やかな笑顔。完璧なイケメン男子ですな。


「うん、昨日ちょっと寝落ちちゃって。課題があと少し残ってんの」

「えっ、まじ?俺もなんだよね。俺は英語が残ってるから、早く目覚めたついでに早く行って終わらせようかなって思って」

「はは、同じだ。よかったら一緒にする?わたし英語教えるよ」

「まじで。やった〜」


朝早くなら、周りの女の子たちもあんまりいないからいいや。普段の時間だったら、近海くんといたら目立っちゃうから嫌だったけど。

…なんだかんだ、この人にもお世話になってるからね。



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