囚われのシンデレラ
〈I〉
……朝は眠たいから嫌い。
……だけど、大好きな彼に起こしてもらうのは嫌いじゃない。
「紫(ゆかり)。いつまで寝てるの?遅刻するよ」
耳元でくすぐったく低く、甘い響きで囁かれる、あたしの大好きな声。
本当は目が覚めていたけど、まだ眠り足りないからね。
あたしはスースーと寝息を立てて布団を被り直す。
ほどなくして、彼の呆れたような溜め息と同時に布団が温もりとともに引っぺがされた。
「紫、急がないと本当に遅刻するよ?」
……もう狸寝入りは通用しないなぁ。
あたしは重たい瞼を擦りながらベッドから起き上がった。
ぼんやりしてた視界がはっきりして最初に映るのはベッドに垂れ下がるレースのカーテンとシャンデリア。
そして、隣には……薫(かおる)の姿。
「おはよう、薫……」
寝起き直後でぼさぼさ頭のあたしとは違って薫はいつ見ても完璧だ。
男なのに、艶のある黒髪と涼やかな目元は上品で華やかなアクセサリーなど彼には必要ないように思える。
「朝食はできてるよ。今日は紫の好きなトマトスープにしたんだけどどうかな?」
「薫が作ったの?食べたい!」
「早く支度しておいで」
そう言って優しい瞳で頭を撫でてくれた。
こくんと頷いて顔を洗いに向かう。
そして、鏡台の前に腰掛けた私の髪を薫が櫛で梳かす。
鏡に映るのは大人しそうな表情でふわふわした栗色の髪を腰まで伸ばしたあたし。
「紫の髪はいつ見ても本当に綺麗だ」
「そうかしら?あたしは薫の黒い髪に憧れる……
だって、癖っ毛なんだもん」