奏でるものは 〜功介〜
そして、思わずキスをした。
唇を離すと、唯歌が俯いた。
そんな唯歌を抱き締めた。
髪から香る甘い匂い、細いけど柔らかい体。
そして、自分がしたことに気付いた。
優しい告白も無く、甘い雰囲気も無く、衝動的にキスをしてしまったことに。
俺たちのファーストキスなのに。
その時、Tシャツの胸のポケットに入れていたスマホが唸り始めた。
仕方なく唯歌を離してスマホを見ると、昌からの着信だった。
「電話だよ、出ないの?」
「あ、ちょっとごめん………もしもし?」
『今日来るだろ?
荷物受け取って来いよ』
「……分かったよ、じゃあな」
クソッ、唯歌抱き締めてたのに。
イライラする。昌のヤツ、今日絶対殴る……。
「友達?」
「あ、ああ。ごめん」
「私、夕方用事なんだ……」
「そうか……送るよ」
立ち上がって歩こうとすると、シャツを後ろから引っ張られた。