副社長のいきなり求婚宣言!?
 これはきっと夢だ。

 そうに違いない。

 だって、お昼のエレベーターからの記憶が途切れ途切れだ。

 それに、一流企業の御曹司様が、私みたいな下級の身分の人間に、く、く、く、口説く、などとおっしゃるはずが、ない……っ!!!!

 なんて贅沢な夢を見ているんだ、私は!


 プシューっと蒸気機関車のごとく耳から煙を出したまま到着した、月を浮かべる闇夜の下。

 定まっていなかった焦点を合わせて見たのは、暖色の灯りに優しく包まれた大きな戸建ての家の前。

 地面からの照明に浮かび上がっている植栽が幻想的で、デザイン性を重視して植えられている。

 そこから向こうに見える豪邸を、車の窓ガラス越しにぼんやりとした頭で見上げた。


 ……このくらいの大きさだと、たぶん二階まで合わせて床で150坪はあるかな。

 屋上があるなら、あと20は広いと思う。
 

 自然と計算をしてしまう頭が、「おい」という呼びかけにようやく意識を取り戻す。

 ぱちくりと瞬くと、まるでどこぞの執事のごとく助手席のドアを開けてくださる副社長様に、さあっと血の気が引いた。
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