副社長のいきなり求婚宣言!?
 それにしても……


 家の幻想的な照明のせいなのだろうか。

 斜め後ろから見る副社長様のお姿は、まさしく艶美そのもの。

 自社の物件に自信がおありなのだろう。

 一部屋一部屋を見回しては、うんと納得されたようにうなずかれる。

 時折真剣に立て付けの具合を見つめる眼差しに、思わず目からハートを零しそうになってしまう。


 そんな見目麗しい殿方に、社の女子が騒がないわけがない。

 颯爽と歩く背中からは煌びやかなオーラが撒き散らされ、それを吸い込む女子全員の視線を釘付けにするのだ。

 それが例え、仕事の鬼と揶揄されるほど手厳しい人だとしても、だ。


 二階の一番奥、ここが5LDK最後の一室。

 ダークオークの扉を押し開くと、そこにはきちんとメイキングされたキングサイズのベッドがあった。

 ためらうことなく部屋に入る副社長の後ろ姿を、廊下から見送る。

 そこで初めて、仕立てのいいスーツの背中が振り向いてきた。

 密かに見惚れていた麗しのお顔が、唐突に私を見つめてくる。


「亜弥音まどか」


 冷静を孕んだ声音が、普通に生きていれば決して関わることなどなかったはずの庶民の名前を口にする。
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