副社長のいきなり求婚宣言!?
「この建物の設計図、もしくはデザイン画に、覚えはあるか?」

「……」


 ……やっぱり、これは尋問だった。

 勝手に浮かれ騒いでいた私の中の女子が、足を引きずり降ろされる。

 そして逆に、氷点下まで温度の下がった足元が、心と表情を冷たく凍らせた。


「どうなんだ?」


 正直に答えなければ天罰でも下ってしまいそうな、回答を急かす尋問。 

 ハートを溢しそうだった瞳は、思い出したくない過去と共にじわりと涙を浮かばせた。

 ためらいながらも、こくりと小さくうなずくと、


「やっぱりそうか」


 呆れたものなのか、満足したのか、大きく吐き出される溜め息が、副社長のすらっとした足元に静かに落とされた。


 この建物に見覚えがないわけではなかった。

 展示会のパンフレットは一通り目を通したから。

 だけど、その写真の中のひとつに既視感を覚え、目が離せなくなったことは……事実だ。

 完成した建物自体は、見たことはない。

 でも明らかな既視感の理由を、私はそっとページを捲ってなかったことにした。


 この建物の設計図とデザイン画は、黒歴史と共に封印したはずだったから。
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