副社長のいきなり求婚宣言!?
「ここは、先日身請けしたとある工務店の作りかけだった住宅を、モデルハウスとしてうちで完成させたものだ」

「身請け……ですか?」


 長谷川建設ほどの大きな企業であれば、中小企業の身請けなんてよくある話だ。

 建築技術・デザイン性などの商品品質はもとより、営業の観点から見ても、業界トップを走り続ける名の売れた企業の手にかかれば、草一本から価値のあるものとして販売してもらえるだろう。

 そんな珍しくもない身請け話に、涙を浮かばせたのは、“とある工務店”と“この建物の設計図、もしくはデザイン画”から導き出されたものが、私の過去にまつわるものだったからだ。


「優秀な人材を切り捨てた会社は、その人材のおかげで取れていた仕事が次第に減り、ついには倒産寸前まで追い詰められた」

「……」

「その元社長殿にも図面を描かせたが、大した腕は持っていなかったらしいな。うちのデザイン部の方が断然いいものを作れる。口は達者のようだったから、営業に回したよ」

「雇ったん、ですか……?」

「ああ。何か不味いことでもあったか?」


 血の気が引くとはこのことか。

 まさか、“あの人”がうちの会社に雇われただなんて……

 こんな不遇に見舞われるために心機一転、転職したわけじゃないのに。
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