副社長のいきなり求婚宣言!?
 頭を振ればいいだけのことだ。

 どこかの工務店の元社長の話なんて、知らないって。

 でも……


 ――“小さくてもいい。

  一軒一軒それぞれに、愛の溢れる家を作りたい”。


 そう語っていたあの人の、キラキラとした瞳を思い出してしまった。


「おい、何で泣くんだよ」


 今は眼鏡を介さない凛とした瞳が、いぶかしげにかすかな歪みを見せる。

 綺麗なお顔がふにゃりと歪んで見えるのは、瞬きを必要とせずに自分の目が水浸しになっているからだ。


 大好きな人と一緒に、家族で作る幸せを思いながら、描いた家。

 それが現実になることはもう叶わないのだと諦めた夢を――……


「……どうして、作っちゃうんですか」

「は?」


 ぐず、と鼻をすすって、冷えた手の甲で頬の涙を拭う。

 できることなら公にはしたくなかったし、それをしなかったのは私の意志で、彼の願いだったから。

 だけど……


「ここ、私が描いた家なんですね」
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