副社長のいきなり求婚宣言!?
「ああ、どうやらそうらしいな」


 当然のことのように驚きもしない副社長様は、きっとそれを知っていたんだろう。

 あるいは、疑惑だったその真偽を、確信に変えるために、私をここへ連れてきたんだ。


「実際にこうやって形になると、寝ずに考えたデザインも、頭禿げちゃいそうなくらい脳みそフル回転させて設計図描いたことも、全っ部が報われるんです。

 もう今死んでもいいやって思えるくらいの達成感って、病みつきになるんですよ?」


 はあと大きく溜め息を吐いた私に、副社長様は目を細めて、シワのない紺色のハンカチを差し出してくれた。

 もう長い間触れていなかった“優しさ”が目の前に出され、冷えていた心がほんのりと熱を帯びる。


「ああ、知ってる。

 ひとつの家族の夢が形になっていく様が、お客様の笑顔になっていくんだから、こんな達成感は他にない。

 だから俺は、一生この仕事のために命を懸けると決めた」


 命を懸けるほどの仕事なら、鬼のような厳しい目になるのも当然のことだ。

 今さらながら、副社長様の仕事に対する姿勢が、真摯なものであるとわかった。
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