副社長のいきなり求婚宣言!?
 ちょ、ちょっと待って……!

 
「お、お、お席をお間違いではないでしょうか、副社長っ!?」


 当然、向かい側に座るのだろうと何の不思議もなく思っていた私に、何の試練を与えているのか、隣でくつろぐように長い脚を組む副社長。

 もうそこから動く気配のない隣から、目配せだけが返ってきた。


「仕事相手なら向かい側に座るが、俺は今仕事してるつもりはない」

「え??」


 ぽす、とソファの背もたれに背中を預ける副社長から、ふわりと漂ってきた甘さを含めた爽やかな香り。

 呼吸をするのもためらわれるほどの近さに、また眩暈が襲ってくる。

 私の激しい動揺に気づくことなく、綺麗な手が厚手のブルーの表紙を開いた。


 チラと見えた一枚目の淡い色彩の家。

 一年以上ぶりに色鉛筆を握った緊張感を思い出した。

 目に触れない場所に仕舞っていた色鉛筆。

 それを引っ張り出した土曜日の午後。

 相変わらず不揃いな長さで、いつだって私の気持ちを代弁してくれていた彼らは、静かに私を待ってくれていた。
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