副社長のいきなり求婚宣言!?
 無意識にじっと滑らかな横顔を眺めていた私に、副社長はぱちりと瞬きをしてから顔を上げてきた。


「何? 惚れたか?」

「い、いいえ……っ!」

「全力否定かよ、傷つくなぁ」


 ぶんぶんと首を振ると、金曜の夜に見た目元をくしゃりと崩した笑顔が、不意をついて胸を圧迫してくる。

 そんな身の程知らずな気持ちは、数日前までのまったく遠い世界の人であったなら、素直に頷いていたかもしれない。

 本当に二次元の世界の人じゃないかと思っていたくらいだから、言うなればテレビの中の芸能人と同じ感覚だ。

 だけど――……

 崩れた表情は、スケッチブックに目を戻すと、すぐさま真剣な眼差しに変わる。

 腕まくりをした手首には、存在感を示しながら時を刻む高級時計。

 ページをめくるたびに動く腕と手の甲の筋に感じる、大人の色気。

 こんなに近くにいると、現実に仕事をしている男の人なんだと思い知らされて、……“惚れる”なんて言葉は簡単に使えないリアルな感情が、胸を目いっぱいに騒がせてしまう。

< 42 / 104 >

この作品をシェア

pagetop