副社長のいきなり求婚宣言!?
 メニューも見せてもらえなかったけれど、いくらするのかしら、ここ……


 恐る恐るナイフとフォークを手にしたものの、夜空から星を降らせたような夜景を臨む場所で食べる料理の値段が未知の領域で、目の前のお魚よりもバッグにあるお財布の中身の方が気になってしかたなかった。


「こういう店、連れてきてもらったことないのか?」


 さっき恐れ多くも乾杯をさせていただいた細いグラスのシャンパンを口にする副社長様は、不躾にも的確なことをおっしゃられた。


「ご、ございませんが……何か」

「いや、ここに着くまでもイチイチ挙動不審に目が泳いでたから、面白くて」


 小馬鹿にしたような笑いにムッとするも、言い返せる言葉がなくて、お上品なお魚さんにサクッとナイフを刺して気持ちを鎮める。


 こんな高級そうな場所どころか、今思えば、人前で堂々としたデートなんて、したことなかった。

 それが浮気相手だったからなんだって気づくと、途端に私のあの数年間は本当にただ夢うつつに浮かれていただけの、幻想だったのだと思い知らされた。

 ただ図面を描くためだけの、安い見返りとして……。


「なんでもっと早く見つけてやれなかったんだろうな」


 口の中でお魚の柔らかさと香ばしさと一緒に、情けなさを噛みしめていると、向かい側から強い視線を感じた。
< 49 / 104 >

この作品をシェア

pagetop